はじめに
「投資はこわいもの」——そんなイメージの多くは、たった一つの銘柄や一つの商品に全財産を賭けて、大きく勝つか大きく負けるか、という博打のような投資から来ています。けれど、資産構築の世界で長く生き残ってきた人たちが大切にしてきたのは、その正反対の考え方です。それが「分散投資」。
「卵を一つのカゴに盛るな」という有名なことわざで語られるこの原則は、なぜこれほどまでに重要なのでしょうか。今回は、分散投資がリスクを減らす仕組みを、初心者の方にもわかるように基礎から整理します。資産形成全体の順番を一枚で見たい方は、資産構築ロードマップもあわせてどうぞ。

ホー、kanato理事長!「攻め方」より先に「負けない型」を知る——分散はまさにその一丁目一番地でしてな。地味に見えて、これが効くのですぞ。
1. 分散投資とは——「卵を一つのカゴに盛るな」
分散投資とは、性質や値動きの異なる複数の資産に、お金を分けて投資することです。一つの会社の株、一つの国、一つの資産だけに集中させるのではなく、あえてバラバラのものに分けて持つ。これが分散の基本姿勢です。
このことわざのイメージはシンプルです。卵を一つのカゴにまとめて入れて運んでいると、そのカゴを落とした瞬間、すべての卵が割れてしまいます。けれど、いくつかのカゴに分けて運んでいれば、一つを落としても、ほかのカゴの卵は無事です。投資でいえば、一つの投資先が大きく値下がりしても、ほかの投資先がそれを補ってくれる——そういう状態を、あらかじめ作っておくということです。

なるほどね。全財産を一つに賭けるなんて、聞いただけで落ち着かないわ。卵を分けておくって、生活の知恵としても当たり前のことよね。
2. なぜリスクが減るのか——「リターンは平均、リスクは平均以下」
ここが、分散投資のいちばんおもしろいところです。値動きのちがう資産を組み合わせると、不思議なことが起こります。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、この効果をこう説明しています。
値動きが異なる資産を組み合わせて投資すると、リターンは各資産の平均になる一方で、リスク(リターンのブレ)は平均より小さくすることができます。
出典:GPIF「分散投資の意義③ 卵を一つのかごに盛るな」
つまり、期待できるリターンは各資産の平均のままなのに、値動きのブレ(リスク)だけは平均より小さくできる。これは「リターンを我慢してリスクを下げる」のではなく、「リターンはそのままに、ブレだけ削る」という、いわば”うまみ”のある関係です。
GPIFはわかりやすい例も挙げています。暑い年に株価が上がるアイスクリーム会社と、寒い年に上がるおでん会社。この正反対の二社を半分ずつ持てば、暑い年も寒い年も、どちらかが沈んでもどちらかが浮く。結果として、全体の成績は安定しやすくなります。逆に、アイスクリーム会社と扇風機メーカー(どちらも暑い年に伸びる)を組み合わせても、同じ方向に動くので効果は薄いのです。

私から一点、補足いたします。組み合わせる資産が「どれだけ違う動きをするか」を示す物差しが、相関係数です。相関係数が低い——つまり連動しにくい資産どうしを組み合わせるほど、価格変動リスクを効率的に減らせます。同じ方向に動くものを並べても、分散にはなりません。
3. 何を分散するのか——資産・地域・時間の3つの軸
では、具体的に何をバラせばよいのでしょうか。金融庁が資産形成の基本として挙げる「長期・積立・分散」を踏まえると、分散は一般に、次の3つの軸に整理できます。
- 資産の分散:株式・債券・不動産(REIT)など、性質の異なる資産に分けて持つ。株が下がる局面で債券が支える、といった関係を期待します
- 地域の分散:日本だけでなく、海外(先進国・新興国)にも分けて投資する。特定の国の不調に全体が引きずられにくくなります
- 時間の分散:一度にまとめて買うのではなく、毎月など決まったタイミングで少しずつ買い続ける。これにより「高いときにだけ買ってしまう」失敗を避けられます。ただし時間の分散がならすのは”買うタイミング”のリスクで、資産・地域の分散(持ち方そのもののリスクを抑える)とは、はたらきが少し異なります
このうち資産と地域の分散が、いわば「何に分けるか」の話。時間の分散は「いつ買うか」の話で、積立投資がそのままこれにあたります。3つの軸をどう組み合わせるかという具体論は、別の記事であらためて掘り下げますが、まずは「分散には複数の方向がある」と押さえておけば十分です。実際の資産の組み合わせ方は、アセットアロケーションの基本で詳しく整理しています。

資産・地域・時間——この3方向に散らすのが王道でしてな。むずかしく考えず、「違う性質のものを、違うタイミングで、いろんな場所に」と覚えておけばよいのですぞ。
4. 分散投資は万能ではない——限界も正直に
ここで、大切な注意点をひとつ。分散投資は「絶対に損をしない魔法」ではありません。この点を誤解すると、いざというときに「話がちがう」と感じてしまいます。
分散で減らせるのは、主に「個別の投資先がこける」タイプのリスクです。一方で、世界中の市場がいっせいに下がるような局面では、分散していても下落そのものは避けられません。リーマンショックやコロナショックのように、多くの資産が同時に売られる場面では、分散の効果も限定的になります。
また、心配のあまり何十本もの商品に細かく分けすぎると、管理が煩雑になるばかりで、効果はそれほど上乗せされません。分散は「やればやるほど良い」ものではなく、性質の違うものを、ほどよく組み合わせることに意味があります。どこまでリスクを取れるかは人それぞれですので、リスク許容度の考え方もあわせて確認してみてください。

一点、指摘させてください。「分散すれば下がらない」は誤りです。分散が和らげるのは”特定の投資先に偏ったことによる”リスクであって、市場全体の変動を消すものではありません。期待できるのはブレの緩和であって、損失ゼロの保証ではないのです、事実として。
5. 初心者にとっての意味——「1本」でも、もう分散は始められる
「いろいろな資産や国に分けるなんて、初心者には難しそう」と感じたかもしれません。けれど、ここに現代の投資のありがたさがあります。
たとえば全世界株式に投資するインデックスファンド(いわゆる「オルカン」)を1本買うだけで、その中身は世界数十カ国・数千銘柄に自動で分散されています。つまり、たった1本の投資信託を選ぶだけで、地域の分散と銘柄の分散がまとめて手に入るわけです。さらにそれを毎月積み立てれば、時間の分散も同時に効いてきます。ただし、全世界株式は中身が株式100%ですから、さきほどの「①資産の分散」——債券などとの組み合わせ——までは1本では完結しません。そこは次のステップとして別に考える余地がある、と覚えておきましょう。投資信託・ETFといった器の違いは、ETF・REIT・投資信託の違いで整理しています。
そして分散の本当の価値は、数字の上のリスク低減だけではありません。値動きがマイルドになることで、暴落が来ても怖くなりにくく、投資を続けやすくなる。当研究所がくり返しお伝えしている複利も積立も、続けて初めて効いてくるものです。分散は、その「続ける」を支える土台でもあるのですな。

分散は、勝ちを大きくするための技ではなく、退場しないための知恵でしてな。退場さえしなければ、複利という最強の味方が、ゆっくり仕事をしてくれるのですぞ。
おわりに
分散投資が重要なのは、それが「リターンを犠牲にせずに、値動きのブレだけを和らげられる」数少ない方法だからです。卵を複数のカゴに分け、性質のちがう資産・地域・時間にお金を散らしておく。そうすることで、一つの不調に全体が引きずられにくくなり、結果として投資を長く続けやすくなります。
万能ではありません。市場全体が下がる局面の下落までは消せません。それでも、「負けにくい型」を最初に身につけておくことは、これから資産を育てていくうえで、何よりの守りになります。次は、その分散を実際にどう配分するか——資産の組み合わせ方の話へ進んでいきましょう。
それでは、良い資産構築ライフを!


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